The Keio-Kawasaki Aging Study

K2スタディ vol.6

令和2年9月吉日
「慶應−川崎エイジング・スタディ」研究代表
慶應義塾大学教授 高山 緑

爽やかな秋の風を感じる頃となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
新型コロナウイルスに罹患された方に心よりお見舞い申し上げます。また一日も早いご回復を祈念しております。

本日は、慶應−川崎エイジング・スタディ(The Keio-Kawasaki Aging Study)のニュースレター「K2スタディだより」第6号をお届けいたします。第6号では、今年1-2月に実施した新しい調査『青年期から成人期の振り返り調査』のご紹介とともに、慶應–川崎エイジング・スタディの研究知見についてご紹介いたします。いずれも新型コロナウイルスにより、私たちの日々の生活が大きく変化したことにも関連した記事になっています。お楽しみいただけますと幸いです。なお、今回は新型コロナウイルス感染症に負けないための「身体活動(生活活動・運動)」に関する資料(資料1)と「おうち時間を楽しく健康に過ごす知恵」に関する資料(資料2)を同封いたします。最終ページに資料の概要をご紹介します。ぜひご活用ください。

ニュースレターには毎号、お問い合わせ用葉書を同封させていただいています。今回はウイルス感染予防のため、新しい生活様式が求められる中で皆様が今、何をお感じになり、どうお暮らしになっているか、皆様の知恵や工夫をぜひお葉書でお寄せいただきたく存じます。次号は来年1月発行予定です。その際に皆様のお声をご紹介させていただきます。

今秋、『青年期から成人期の振り返り調査』にご協力いただいた皆様のうち、ご快諾いただいた方へインタビューをさせていただく予定でおりましたが、 現在、実施時期や、お電話でのインタビューの実施など方法について検討しています。改めてご案内した際には、ご参加の有無についてご検討いただけますと幸いです。

末筆になりますが、皆様と、皆様の大切な方々のご健康とご多幸を心より祈念しております。

活発な生活を送るヒントは毎日の暮らしの中に

ウイルス感染防止のため、あらためて毎日の生活を見直した方もいらっしゃったかもしれません。今年1-2月に実施したアンケート調査は、新型コロナウイルスの影響が拡大する前にご回答いただきました。ご回答いただいた方は、77歳から91歳の444名(男性216名、女性228名)でした。

アンケートには現在の生活の中で大切にされている事柄をうかがいました。25個の生活活動の中でもっとも多くの方が「とても大切だ」と回答された上位5つは「健康を維持増進する(49%)」「家族と一緒に過ごす(43%)」「新聞、雑誌を読む(42%)」「友人との付き合い(35%)」「家事をする、その一部を手伝う(34%)」でした。ご回答の中には「大切な事柄をやりたくても体がいうことをきいてくれない」とのご回答もございましたが、これら5つの事柄は多くの方が共通して大切に感じていらっしゃることが示されました。

これら5つの事柄は、活発な生活や社会とのつながりのある生活をする上で基盤となる事柄と言えます。たとえば「健康を維持する」ことはそれ自体を生きがいに感じる方もいらっしゃいますし、趣味や楽しい時間を過ごす上で大切な資源になります。そして「人とのつながり」を感じることは私たちの幸福感に大きく影響します。ご回答いただいた中には「ご家族やご友人を亡くし、大切にしたくてもできない」という方もいらっしゃいます。一方で、家族や友人にかかわらず「人と接すること」「社会とのつながり」を大事にしたいという回答もございました。「つながりのある社会」をどのように作っていくかは社会が直面している課題でもあり、この研究グループでも着目しているテーマの一つです。

最後に「家事」は生活を営む上で必要な事ですが、負担に感じやすい事でもあります。しかし、家事には、買い物や食事の準備、家の整理、近所づきあいなど、「健康である」と感じる基準と言われている「運動・食事」「好奇心をもつ」「会話する」の3つの要素が含まれています。言い換えると、毎日の家事を通じて、ご自身のスタイルに応じた独自の健康法を編み出せるのではないでしょうか。65歳以上の方の健康づくりには、家庭内の仕事を毎日40分することが推奨されています。詳しくは同封の資料1をご覧ください。感染症を防止しながら、毎日の暮らし中で大切なことを続けて、活発な生活を送りましょう。

(石岡良子)

イラスト1:健康を維持する イラスト2:人とのつながり イラスト3:家事をする

不安や悲しみとの上手なつきあい方

「自粛生活」と言われはじめてから半年以上が経ちます。期間が長くなり、閉塞感や先行きの見えない不安を感じていらっしゃる方も少なくないかと思います。私たちは、このような気持ちとどう折り合いをつけたらいいのでしょうか。ここではこのような気持ちの動き、すなわち「感情」について取り上げます。

感情には大きく分けてプラスの感情(楽しい、満足する、穏やかだ、といったもの)と、マイナスの感情(悲しい、がっかり、憂うつ、心配する、といったもの)があります。K2スタディでは、皆様が日ごろどんな感情を経験しているかをお尋ねし、健康との関連などを調べてきました。2018年に実施した調査では、プラスの感情とマイナスの感情を、1日のうちでそれぞれどのくらい感じたかを質問しました。以下に、その結果についてご紹介します。

図1 プラス感情とマイナス感情の経験量による分類の結果 図2 感情経験量による分類ごとにみた、精神的健康得点(平均値)

プラス感情とマイナス感情をよく感じたか、あまり感じなかったかで、回答者を4つに分類した結果が図1です。プラス感情もマイナス感情もどちらもあまり感じなかった人が14%、どちらもよく感じた人は22%、プラス感情をよく感じたがマイナス感情はあまり感じなかったと回答した人は34%、残りの30%の人は、マイナス感情をよく経験したがプラス感情はあまり感じなかった人でした。

以上の4グループで精神的健康度の違いを調べたところ「マイナス感情を多く経験しプラス感情はあまり感じなかったグループ」が、他のグループと比べて、精神的健康の点数が低いことがわかりました(図2)。他の3グループの間には差はありませんでした。

さらに分析したところ、健康状態が悪いと感じている人や、友人等との交流頻度が低調な人ほど、「マイナス感情を多く経験しプラス感情はあまり感じないグループ」になりやすいことがわかりました。

生活していると、ガッカリしたり、不安や悲しいことに遭遇することは避けられません。調査結果からは、そういったマイナスの気持ちを感じること自体は避けられなくても、悲しいことと同じくらい、楽しいことや嬉しいことにも目を向けられる、心のゆとりが大事であることが見えてきます。

皆様は日ごろどのようなことに楽しさや喜びを見つけていらっしゃいますか。

(菅原育子)

同封した資料のご説明

資料1は『生活不活発病に負けるな!健康づくりのための身体活動量チェック』(新潟県リハビリテーション専門職協議会)です。戸外での活動がしにくい日が続いていますが、運動だけでなく、お掃除や調理、洗濯干しなどの家事や、お家の中での活動も毎日40分続けると「生活不活発病」の予防に繋がります。こちらの資料ではMETsという指標を利用して身体活動のチェックができます。

資料2は『おうち時間を楽しく健康にすごす知恵:おうちえ』(東京大学高齢社会総合研究機構)の抜粋です。K2スタディ・メンバーの菅原も制作に携わっています。『おうちえ』から、「きずな」と「こころ」に関するヒントをご紹介します。