「慶應−川崎エイジング・スタディ」研究代表
慶應義塾大学教授 高山緑
清秋の候、皆様におかれましてはますますご健勝のほどお喜び申し上げます。
慶應−川崎エイジング・スタディ(The Keio-Kawasaki Aging Study)のニュースレター「K2スタディだより」第2号をお届けいたします。
第2号では、皆様にご協力いただきました「第1回 長寿社会の暮らしと健康に関する調査」結果の中から、地域でのおつきあいと生活の豊かさについて、そしてお住まいの地域への愛着や、地域の一員という意識が、皆様の心身の健康や幸福感と関係していることについてご報告させていただきます。ご高覧いただけますと幸いです。
平成27年2〜3月にかけて実施した「長寿社会の暮らしと健康に関する調査」(第1回パネル調査)では約900名の方にご協力いただきました。また平成27年秋には、さらに約40名の方から詳しいお話を伺わせていただきました。ご協力いただきましたことにあらためて心より御礼申し上げます。
これらの調査の結果から、地域環境や地域社会での活動、そして身近な方々との交流が、みなさまの心身の健康と深く関わっていることが明らかになりました。同時に、交流や活動の実態は日々変化しており、その変化にどう対応するかによって、その後の生活や健康状態にも大きく影響することが明らかになりました。これらの結果は、現在、国内学会、国際学会において順次報告しており、学会だけでなく、行政の方からもご関心を寄せていただいております。
今秋10月から11月にかけて、第2回目の調査を予定しております。10月中旬に調査のご案内文をお送りさせていただきます。ぜひ、引き続きご協力をいただけると幸いに存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
今号では、慶應義塾大学教養研究センター主催・神奈川県ヘルスケア・ニューフロンティア講座『文化としての老いと病』のご案内を同封させていただきます。研究代表者の髙山も第1回(10月12日)に登壇いたします。また、慶應義塾大学公式の髙山の研究紹介動画『理工学部 高山緑「豊かな長寿社会の実現」につながるジェロントロジーの研究』がYouTube「Keio University Hiyoshi Research」チャンネルにアップされています。よろしければ、お楽しみください。
末筆になりますが、皆様のご健康とご多幸を祈念しております。
調査結果1 地域での人づきあいと,生活の豊かさ
第1回調査では、お住まいの地域に関することをお伺いしました。調査の結果、地域の方との関係が身体や心の健康と関係することがわかりました。
お住まいの地域に、親せき以外でおつきあいのある人が「いる」と回答された方は、全体の60%でした。この割合は年齢や男女によって大きな違いはみられませんでした。
地域の方とおつきあいのある人がいると回答された方に対して、おつきあいの内容をお伺いしました。その結果、「地域の人と、一緒に楽しい時間をすごす」(70%)とともに、地域の人から「ためになる情報をもらう」(63%)と回答された方が多くみられました。また、地域の方から、何かをしてもらうだけでなく、過半数の方が、地域の方へ「ためになる情報をあげる」(52%)、「ちょっとした手助けをしてあげる」(56%)と回答されました(図1)。
次に、地域の方との交流スタイルと心身の健康との関連を調べました。その結果、「地域の人と一緒に楽しい時間をすごしている」こととともに、「地域の人のちょっとした手助けをしてあげている」、「地域の人に、ためになるような情報を教えてあげる」といった、地域の人たちのために手助けをしている人ほど、身体的にも精神的にも健康と感じていらっしゃる傾向があり、人生に対する満足感が高く、楽しい気分を感じて、日々を過ごしていらっしゃることがわかりました。
身近なご近所の方との交流は、生活のはりをもたらすとともに、いざという時への安心感をもたらすことにも繋がります。日々のおつきあいは体の健康や心の健康、いざというときの危機管理など様々な面で大切であることが伺えます。
調査結果2 地域に対する愛着から見えてきたこと
第1回調査では、お住まいの地域について、皆様のお考えについて伺いました。ここでは、「地域への愛着」、「地域の一員という意識」、「緊急時の地域への信頼感」に関する結果についてご紹介します(図2)。
「地域への愛着」については、「この地域は、私にとって居心地がよい」、「私はこれからも、この地域に住み続けたい」の2つの質問に対してご回答いただきました。「この地域は、私にとって居心地がよい」と思われますかという質問に対して、6割の方が「そう思う」と回答されました。「まあそう思う」と合わせると、9割近くの方がお住まいの地域は居心地が良いと回答されました。「私はこれからも、この地域に住み続けたい」と思われますかという質問に対しては、7割近くの方が「そう思う」と回答されました。「まあそう思う」と合わせると、9割近くの方がお住まいの地域に住み続けたいと回答されました。
「地域の一員という意識」については、「私はこの地域に住む多くの人と顔見知りだ」、「私はこの地域の一員だ、と感じている」の2つの質問をお尋ねしました。「私はこの地域に住む多くの人と顔見知りだ」と思われますかという質問に対して、「そう思う」「まあそう思う」と合わせると、6割以上の方がお住まいの地域に住む多くの方と顔見知りであると回答されました。「私はこの地域の一員だ、と感じている」と思われますかという質問に対して、「そう思う」「まあそう思う」と合わせると、7割以上の方が地域の一員という意識をお持ちであることがわかりました。
「緊急時の地域への信頼感」については、「災害や犯罪にあうなど万が一の時には、地域の人や地域の避難所などが頼りになる」と思われますかという質問に対して、5割近くの方が「そう思う」と回答されました。「まあそう思う」と合わせると、7割以上の方が緊急時にお住まいの地域の人や避難所などに信頼を感じていらっしゃることがわかりました。地域への愛着や、一員という意識、緊急時の地域への信頼感という観点からは、お住まいの地域に対して、肯定的にとらえている方が多いことがわかりました。
次に「地域への愛着」と心の健康の指標である「人生に対する満足度」との関連性をみてみると、「地域への愛着」が平均よりも高いと回答された方は、低いと回答された方よりも、「人生に対する満足度」が高いことがわかりました(図3)。もちろん、人生に対する満足度は、これまでのご家族やご友人と過ごされた時間やお仕事、健康状態などと関係します。しかし、それだけではなく、お住まいの地域環境とも関係することがわかりました。
より年齢を重ねると、地域に対する親しみや愛情の高まりが、自分自身の人生に対する幸せな気持ちや満足感を高めることにつながっていくのかもしれません。K2(ケイ・スクエア)スタディでは、今後、地域環境(お住まいの地域の施設やサービスなど)や地域に対する意識と、心身の健康や幸福感との関係について、さらに詳しく調べていきたいと考えています。