令和8(2026)年度 日本福祉心理学会第24回大会・一般公開プログラム
1984年生まれ。東京都大田区出身。これまでに日本障害フォーラム障害者権利条約パラレルレポート特別委員会委員、日本福祉のまちづくり学会心のバリアフリー特別委員会協力委員、国立研究開発法人日本医療研究開発機構地球規模保健課題解決推進のための研究事業研究委員、曹洞宗人権推進本部資料制作委員会委員、一般社団法人日本精神科看護協会倫理綱領改定委員会委員、第17回日本統合失調症学会プログラム委員、第20回日本うつ病学会プログラム委員等を歴任。
近年では、The Valuable 500国内署名企業へのインタビュー、国立精神・神経医療研究センターとの精神障害×災害をテーマにした当事者主導型研究の実施、アンチスティグマの取り組みとしてメディアガイドライン制作の働きかけなど、セクターを越えて共同創造をモットーに精神障害のある当事者の立場から、当事者の場づくりや理解啓発活動、政策提言に取り組んでいる。
本講演では、精神障害当事者の立場から、専門職の支援を「誰のための支援なのか」「何を支えているのか」という視点で問い直したい。専門職による支援は、困難を抱える人の生活を支える重要な社会的資源である。同時に、支援する側とされる側の関係には、知識、立場、制度上の権限の差が存在する。その権力勾配が見過ごされると、本人の語りは症状や問題行動として回収され、生活の文脈や願い、選択の理由が見えにくくなる。支援が善意にもとづくものであっても、本人の声を確認し続ける仕組みがなければ、支援は容易に管理や誘導へと傾く。
とりわけ精神保健医療福祉の領域では、非自発的な入院や治療、リスク管理をめぐる判断、家族や専門職による代弁、地域生活への移行支援など、本人の意思決定と専門職の判断が緊張関係をもつ場面が少なくない。専門職は安全や保護を理由に判断を急ぐことがあるが、当事者にとっては、その過程で失われた信頼や自己決定の感覚こそが長く影響することがある。だからこそ、当事者を支援の対象としてのみ位置づけるのではなく、生活を営む主体、経験を語る主体、支援のあり方を共につくる主体として捉え直すことが必要である。
本講演では、当事者活動や政策提言、研究参画の経験を踏まえ、専門職が自らの支援の前提を点検し、当事者の声とともに実践をつくるための手がかりを考えてみたい。
文部科学省「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)」の公表や改正障害者差別解消法の施行により、高等教育機関における障害学生支援は新たな局面を迎えている。「第三次まとめ」では、障害の「社会モデル」に立ち、教育を受ける権利の保障(権利擁護)を大前提・土台としつつ、学生本人の「意思表明」を起点とした大学と学生との「建設的対話」による合理的配慮の決定、そして将来の社会的自立(移行支援)を見据えた包括的な支援が求められている。
この理念を機能させるために、大学の支援現場には、主に臨床心理学を基盤とし、学生の自己理解や心理的適応に寄り添うアプローチ(心理職)と、社会福祉学を基盤とし、環境調整や制度の活用を推進するアプローチ(福祉職)の双方が配置されている。しかし、両者は支援の力点やアプローチが異なるため、コンフリクトが生じることもある。
個人の心理的特性の理解と、社会システム・環境への介入を不可分なものとして統合する「福祉心理学」の視点は、異なる専門家間で生じるコンフリクトを解消し、当事者主体の支援を形作るための共通言語となり得る。本シンポジウムでは、臨床心理学と社会福祉学それぞれの知見をベースとした支援の実際や、多様な大学環境におけるコーディネートの工夫を共有するとともに、社会モデルの観点から支援のあり方を問い直す。また、福祉心理学が果たすべき実践的な役割とチームアプローチのあり方について、フロアの参加者と共に議論する。
現代社会は、価値観の多様化が進む一方で、社会機能の高度な専門化と分断化が加速している。また、地縁・血縁やコミュニティの成員同士による自然な支え合いが希薄化する中、当事者が繋がるべき専門家や制度は多岐にわたり、複雑になっている。しかし、日本の医療・福祉等の制度は、本人の申し出を起点とする「申請主義」であり、困難に遭遇している当事者が権利を行使する上でのバリアとなっている。
特に、障害や疾患の告知を受けた直後の当事者は、精神的な混乱や将来への不安等に直面することが多く、そのような状況の中で、自らの権利を守り、日常生活や社会生活を送るために必要な情報を取捨選択し、適切な社会資源に辿り着くことは極めて困難である。こうした状況下で、医療現場から福祉・教育・地域生活への移行期において、誰にも繋がれない「支援の空白」が生じており、当事者のみならず共に戸惑う家族への「ファミリーサポート」の欠如も深刻な課題となっている。
一方、支援現場においては、専門家が医学的な診断や機能回復を重視し、当事者を指導・管理の対象とする「医学モデル」の観点が強い。そのため、専門家の判断に基づいた助言が優先されることが多く、障害を社会的障壁(バリア)として捉える「社会モデル」や、個人の尊厳や意思決定を重んじる「人権モデル」の視点は不十分である。
このような社会的状況の中で求められるのが、当事者やその家族の気持ちに寄り添い、ニーズを明確化した上で、必要な社会資源へとつなげる「リンクワーク」である。福祉心理学の観点から言えば、当事者が「自分らしさ」を再構築するためのプロセスに寄り添い、その声を社会資源へと繋いでいく「アドボカシー」の実践であると考えられる。
本シンポジウムでは、視覚障害と認知症という分野横断的な比較検討を通じて、当事者・制度・専門職を結び、制度の狭間や複合的な困難を抱える全ての人々の生活を支える普遍的機能としての「リンクワーク」の可能性と今後の展望を議論する。